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長澤まさみロングインタビュー「楽しく生きてる人でありたい」 [FRaU]

2018年03月06日(火) 18時00分配信

撮影中の彼女は、そこにいる誰もが、息をのむほどに美しかった。笑うときも、黙るときも、ただ自然にそこにいるだけなのに。呼吸して、見つめて、目を閉じて、ときに無になる。心の内で何が起こっているかはわからない。でも、撮影を楽しんでいることだけは、よくわかった。

きっと彼女の “キレイのもと” は、その心の持ちようにある。そんな気がして、自分語りが苦手だと話す長澤さんに、仕事について、結婚について、子供時代のこと、大人になるということについて等々……様々な質問をぶつけた。そうして、彼女らしい、あったかくてキラキラした母性の欠片に出会った。関わった人に対しては、つい家族のような愛情を注ぎたくなる―― 。そんな、彼女の人としての温かさに触れた。
現実は今しかない 今目の前にあることをやることが“生きる”ってことだと思います

Photo:Kazuyoshi Shimomura(UM)

現実は今しかない 今目の前にあることをやることが“生きる”ってことだと思います

彼女と話すうちに、大人になるということは、日常の些細な出来事を、楽しみ、慈しむ余裕ができることなのかもしれないと気づかされる。デビューしてから16年の間に、心で起こった出来事を正確に描写しようとする長澤さんだが、訊かれたことに答えているだけで、普段は、自ら過去を振り返ったりはしない。さらに、未来のことも、何か展望を抱いたり、具体的な計画を立てたりするタイプではないそうだ。彼女は、力強く言うのだ。自分にできるのは、精一杯 “今を生きる” だけだと。

「 “好き” が一番大事とはいっても、俳優というのは必要とされなくなったら仕事はなくなってしまう。20代の頃は、それに対してのわけのわからない不安はありました。だから、“好きだけじゃ続かないのかも” なんて思ったんでしょうね。でも、今になってわかるのは、私にできることは、目の前にあることをやること。やるしかないんです。だって先のことなんて、誰にもわからないんだから。未来のことをいくら想像したって、現実を摑めないまま終わってしまうことが多い。現実は今しかないんです。今目の前にあることをやることが、“生きる” ってことだと思っています」
自分のことがわからないとは言いながら、割とのんびり屋であること、シャイであること、悩みやすくはあるけれどあまり深刻にならない性格などについては自覚している。以前から、一つ大きな仕事が終わるたびに、「よし、休もう。休んで力を溜めてから、次また頑張ろう」と思うタイプだった。ノンストップで走り続けて、あれもこれも手に入れなければと焦るような性格ではない。だから、プライベートの部分で、たとえば結婚についてもとくに焦ることはないらしい。

「静岡にいたらまた違ったかもしれないですけど、東京にいると、周りがバタバタと結婚するわけでもないし、焦りみたいなものはまったくないです。年齢や、俳優であることが、恋愛や結婚の枷かせになると思ったことも、ないです。恋愛はともかく、結婚の場合は、一番大切なのはタイミングだと思う。『明日、江ノ島行こうぜ』『うん』みたいな、軽いノリじゃできないから(笑)。もっと、大切に考えなきゃならない事柄だし、相手がいることだから、焦ってもしょうがないじゃないですか」
先のことは考えない。あれもこれもと欲張らない。焦らず、ただ、今を生きる――。「最近、言葉を大切にしたいと思うようになった」と話す彼女が発する言葉は、ごくごくシンプルだ。それは諦観でも達観でもなく、いろんな失敗を繰り返して、迷って、悩んで、苦しんで、傷ついて、でもそこまで深刻にはならずに、ちゃんといくつもの出来事から学んで、辿り着いた “30歳の境地” なのだろう。

「若さに捉われることは、あんまりしたくないですね。若さを保ちすぎると、50、60の役はできないから。老いるということは、私にとって怖いことではないです。むしろ、60になって、子供みたいな容姿でいたら、逆に恥ずかしくなるんじゃないかなって思う。その年齢にはその年齢なりの楽しみ、魅力があるはず。ちゃんと歳相応に生きていきたいなと思います。

さっき、20代の頃は未来が見えない仕事に関して、すこし不安になったこともあるみたいな話をしましたが、この仕事の一番の魅力は年齢制限のない職業だということ。10年先のことはわからないけど、何十年か先、おばあさんになってもできる仕事なんだな、ってふと思ったりすると、そういうときは、ちょっとだけ心強い(笑)」
自分の年齢との付き合い方ははっきりしているけれど、彼女の場合、「それが正解」という言い方は、決してしない。あくまで「私はそう考える」というだけだ。世の中にはいろんな考え方があっていい。だから、アンチエイジングに精を出す人も、素敵だと思っている。

「もちろん、女優というのは夢を売る仕事でもあるから、どこかファンタジックな部分を見せていくのも必要だし、そこに向かって努力するのも素敵なことだとは思います。だけど、私の場合、これからも自分の価値観でやっていくことしかできないと思うんです。そこに関しては、あがけない(笑)。

私は、年齢を重ねた、いわゆる “おばさん” と呼ばれる世代の人たちと友達になるのが、昔から大好きなんですよ。自分よりたくさんの知識があって、ユーモアがあって、強くて、たくましくて、カッコよくて」
長澤さんは、友達の年齢を問わない。年上から年下まで幅広くいる中で、接していてとくに「可愛いなぁ」と楽しい気分になるのが、“おばさん” 世代なんだとか。

「え、だって可愛くないですか? ちょっと図々しかったり、あっけらかんとしていたりとか、そういういかにもおばさんっぽい態度を取るのも、私は可愛らしく思うし、素敵だと思う。そうやって、生きていることを楽しんでいる人たちを見ると、すごく私も楽しいんです。その上のおばあちゃんなんてもっと可愛いでしょ?

私は、子供の頃からなぜかおばさん、おじさん世代と一緒に過ごすのが大好きで、幼馴染の子のところに遊びにいっては、その家のお母さんやおばあちゃんとかとみんなで話をするような、そういう環境で育ってきたんです。母親のお友達のお家に遊びに行って、お茶を飲みながら、母とそのお友達との会話に入っていったり……」
とどのつまり、長澤さんは、好きなこと、楽しいことに忠実に生きているだけなのかもしれない。そんな彼女が、仕事で楽しさを感じるのは、「わからないことがなくなる瞬間」だ。たとえば、舞台の稽古でのこと。それまで、台本を読みながら手探りだった人物像が、演出家や共演者の言葉によって、どんどんクリアになっていく。ぼんやりしていた輪郭が、くっきりとしてきたり、自分の発する言葉の意味が、ドスンと腑に落ちたり。舞台はとくに、一人で悩まなくてもいいこと、みんなで一つの役という人間について話し合えることが、とても贅沢で幸せな時間だと思うのだそうだ。
何かをやりたい気持ち 引っ込み思案な気持ち 真逆の気持ちをいつも持ってる

Photo:Kazuyoshi Shimomura(UM)

何かをやりたい気持ち 引っ込み思案な気持ち 真逆の気持ちをいつも持ってる

撮影風景を見ていても思ったのだが、長澤さんは、モノ作りの現場に、とても気持ちよく馴染む。部屋に響くシャッター音と、語らずしてコミュニケーションを取りながら、自然に、求められる情感を、表情に出す。反応が速くて、一瞬一瞬の変化の中に、ちゃんと、彼女らしい意味合いを乗せていく。衣裳にしても、その衣裳の持つ意図を汲んで、とてもキレイなシルエットを生み出してゆく。服にも感情があるとすれば、彼女に着られた服は、さぞかし幸せなことだろう。

そんな想像をしてしまうほど、彼女がいる空間には、雑味のない、フレッシュな空気やすっきりとしたリズムが生まれるのである。

「アハハ。よく、先輩の女優さんたちには、『まさみはすくすく育ったね』って言われます。10代の頃に、ミニスカートとか穿いていると、『いいね、健康的でスカッとする!』とか言われたこともある(笑)。私自身は、スカッと明るい性格ではないのに、なんでそう見えるんだと、最初の頃は不思議でした。でもこればかりは、健康的な体に産んでくれた両親に感謝ですね。

女優をやって最初に驚いたのが、演じた役の影響で、自分の知らない自分が認知されている感覚を初めて知ったときで、『へぇっ!』って驚きましたね」
彼女が撮影や収録や稽古の “現場” が好きなことはよくわかったけれど、話を聞くにつけ、女優にあるまじきその自己顕示欲の低さに、驚かされたりもする。撮影のときも、いわゆる “ドヤ顔” 的な表情が一つもなく、カッコよくて美しい、非の打ちどころのないハンサムウーマンなのに、どこか寂しげなところもあって。それが妙にそそられる。長澤まさみという人を、もっともっと知りたくなる。でも、彼女は言うのだ。彼女自身が一番、自分のことがわかっていないのだから、と。

「昨日親友と話していて、ちょうど『私たちって何なんだろうね』って話になったんです。彼女と私は、出たがりのようで、本当は出たがりじゃなくて、でも何かはしていたい。そんな性格が似ていて……。それで、2時間ぐらい話して出た結論が、『多重人格なんじゃない? 私たちって』ってことだった(笑)。

出たがりなところも、あるにはあるんですよ。でも、いざ出てみると今度は、『なんで私みたいな人間が、こんなことやってるんだろう?』って引け目を感じるような、引っ込み思案な面もあって。真逆の感情をいつも持っていて、自分でも謎なんです」
その友達との会話を思い出している長澤さんの表情が、少女のようにピュアで、とてもリラックスしていた。たぶん、自分と似たその友達のことにあれこれと思いをめぐらすことが楽しいのだろう。自分のことよりも、好きな友人のことをあれこれ考える方がウキウキする。彼女はそんな人なのだ。

「人見知りではあるけれど、私は、人とどんどん関わっていくことが、人生を豊かにすることだと思う。でも、どんなに仲がいい友達でも、仕事の愚痴を言ったりはしないですね。私、基本的には秘密主義なんだと思います。とくに仕事の相談事は、マネージャーさん以外にはしないです。自分のことを話すよりも、人の話を聞いている方が、刺激的だし面白いから」
まだ10代前半の頃、「大人になったら何になる?」と訊かれたときは、「楽しく生きてる人になりたい」と答えていた。今も人から、「いつも楽しそうだね」って言われると、素直に「嬉しいな」と思う。

「私の人生の課題は、日常生活を飽きずに、どれだけ普通の毎日を楽しめるかってこと。私は、今思えば結構冷めた子供で、毎日を『つまんないなぁ』なんて思って、気づくと溜め息をついているようなことがよくあった。でも、それじゃ人としてダメなんです。ちゃんと毎日を生きてない。人生をどれだけ楽しくするのかは、自分次第なんだから。

日常生活を、きちっと送れることは、すごく贅沢なことだと思う。私は、俳優という仕事をそんなに特別なものだと思っていないので、たとえば朝起きて、仕事に行って、帰ってきて、お茶をすすりながら、『今日もいい一日だった』と思えるような日常を送っていたい。淡々と、そんな毎日を送れる人になりたいんです」
普通の感覚を忘れないこと。些細な日常の変化に気づけること。何より毎日を楽しむこと。そんな素敵な心がけをいくつも持っているから、長澤さんがまとう空気は、いつもフレッシュで、キレイなのかもしれない。
優しいっていうか、 変わってるんです。つい 親切と紙一重のお節介を焼きたくなる

Photo:Kazuyoshi Shimomura(UM)

優しいっていうか、 変わってるんです。つい 親切と紙一重のお節介を焼きたくなる

ややこしい質問にも、一生懸命考えながら、誠意を持って答える姿に、彼女の心根の優しさを感じていた。そこで、少し唐突だけれど、「 “人に優しくしよう” と思ったりはしますか?」と質問してみた。

「小さい頃の私は、体も大きかったし、他の子よりも、なんでもやることが早かった。だから、親切と紙一重のお節介を焼いてしまうような子だったんだと思います。昔から、困っている人を見ると、声をかけて『なにかできることはありませんか』とか聞いてしまうタイプで、そういう部分は、今もあるなぁと思います」
“お節介” というより、そこはやっぱり優しい人なのだろう。でも照れ屋の長澤さんは、“優しい” というごくありふれた形容詞を、頑に自分に当てはめようとせず、「いやいや、ただちょっとヘンなだけです」と、あくまで謙虚に答える。そんなふうに控えめで、褒められ慣れていないところは、なんだかとても品がいい。

「大人になった今も、たとえばスタッフさんがマスクをしていたりすると心配だし、寒くなってふと友達のことを思い出すと、“風邪引いてないかな?” とか、まず体調のことが気になったりしますね。周りの人たちに対してあれこれ心配しちゃうところは、母性の強さからきているのかもしれない。

私、一緒に仕事をした人に対して、毎回勝手に、家族みたいな親しみを持ってしまうんです。せっかく、一つの目的のもとに集まったんだからファミリーとして助け合おう、尽くし合おう。そんな精神が強くて……。だから、映画やドラマや舞台のように、長い期間苦楽を共にした人は、私は心の中で勝手に家族だと思っているところはあります」
彼女の口から、“母性” というキーワードを聞いたとき、とても合点がいった。母性というのは、子供のいる母親だけに宿っているものではない。それは言うなれば、周りの人たちを包む “愛の力”。人のことを思いやる心の余裕があって、人の話を聞くのが好きで、困っている人がいたら手を差し伸べたくなって、一緒に長い時間を過ごした人を、家族のように慈しむ。考えてみれば、この世の中に、母性にまさる美徳などどこにもないのだ。

でも、それすらも美徳とは受け止めず、ユーモアたっぷりに彼女は言った。

「自分のことは特別女っぽいとも思わないし、たまに男っぽいところもあったりするけど、全体的なノリとしては、一番 “おばさん” に近いんですよ。だから私、昔からおばさんたちと一緒にいるのが好きなのかもしれないですね(笑)」
何か一つ、特別な才能が手に入るとしたら何がいいですかという問いには、「飯島奈美さんみたいに、キレイにささっとおいしい料理を作る才能かな。食べることは生きることだから、大切にしたいなと思っていて」と答えた。「食べることは生きることだ」と思っている長澤さんには、常にハマっているレシピ本がある。それが、今はたまたま飯島奈美さんの本なのだそうだ。
長澤まさみという人は、決して多くを語る人ではない。それが、自分のことなら尚更だ。でも、毎日を誠実に、真摯に生きる姿勢が、その表情や瞳の輝き、あるいは何気なく発した一言に、表れることがある。

たとえば、主演した映画『噓を愛する女』で長澤さん演じる由加利は、一緒に暮らしていた男性が、過去を偽っていたことを知り、その愛を確かめるために、彼の過去を辿る旅に出る。映画の終盤で、意識を取り戻さない男の愛をひたむきに信じながら、春を迎えたときの由加利の表情が、とてつもなく美しかった。信じるものがあるとき、一途に愛する人がいるとき、女はこんなにもキレイになるのだ。

映画の中で、舞台で、ドラマで。芝居をするのではなく、全力で、彼女は役を生きている。そのすべてが、彼女の経験となり、学びとなり、見た目以上に、その心の美しさは磨かれていくばかりだ。

PROFILE

長澤まさみ Masami Nagasawa
1987年6月3日生まれ。静岡県出身。2000年、第五回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ受賞。女優として、数多くのドラマ・映画・舞台・CMなどで活躍中。2017年は舞台『キャバレー』、映画『SING/シング』『追憶』『銀魂』、『散歩する侵略者』に出演。公開待機作は、映画『50回目のファーストキス』(6/1公開予定)、『マスカレード・ホテル』(2019年公開予定)。また、4月スタートのフジテレビ月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」に主演。人気脚本家・古沢良太によるエンターテインメントコメディーで初の詐欺師を演じる。
●情報は、FRaU2018年2月号発売時点のものです。

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