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奇想の画家・ボスの名画に隠された謎を紐解く知的エクスタシー映画 [おとなスタイル]

2017年11月26日(日) 10時00分配信

どんな画家なのか気になります。

映画『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』が12月16日(土)よりシアターイメージフォーラムほか全国順次公開で公開されます。今年日本でも『ブリューゲル バベルの塔展』が開催され、ボスの初来日の油彩画2点が公開されましたし、Bunkamura ザ・ミュージアムでは『ベルギー 奇想の系譜展』でボス派の作品が公開され、その奇妙な空想世界に魅了された方も多いかと思います。昨年2016年はボスの没後500年にあたり、ヨーロッパでは1大ボスブームも巻き起こりました。
そんな中、プラド美術館の全面協力で完成したこの映画は、プラド所蔵の三連祭壇画『快楽の園』をあらゆる角度から紐解き、“悪魔のクリエーター”とも呼ばれるボスとは? そしてそこに描かれたものとは? について徹底的に掘り下げます。

(C)Museo Nacional del Prado (C) Lopez-Li Films

オランダで1450年頃に生まれ、1516年に没し、ダ・ヴィンチと同時代を生きた北方ルネサンスの巨匠ボスが、いったいなぜ、誰のために何のためにこんな絵を描いたのか? 現存する作品は世界に25作品のみというボスの謎を一緒に解明していくような知的好奇心を味わえるこの映画、美術好きにはたまらない作品です。

(C)Museo Nacional del Prado (C) Lopez-Li Films

映画では、ノーベル賞作家オルハン・パルク、ヨーロッパを代表する作家サルマン・ラシュディ、ソプラノ歌手のルネ・フラミング、ボスも所属した聖母マリア兄弟会の牧師(兄弟会はもちろんカトリックでしたが、今はプロテスタントになっているんですね)といった各界の知識人たちが『快楽の園』に対峙していきます。

(C)Museo Nacional del Prado (C) Lopez-Li Films

右側に描かれたのは終末を表す絡み合う男女やユーモラスな怪物、多種多様な果物や動物、左側に描かれたのはアダムとエヴァの住む楽園。各人が何かを読み解こうとするのですが、いずれもいつの間にか寓意に満ちた幻想の世界、そしてそれに向き合う自分の世界へと没頭していきます。また、赤外線分析で判明した下絵の存在や、驚くほど精密な筆遣いと顔料の秘密、描かれているものの現代には受け継がれなかった古楽器など、展覧会の図録でもここまでは大きく見られない映画ならではの多い大画面の迫力が、観客をぐいぐいとボスの世界に引き込まれます。
興味深かったのは、美術史家ラインダー・ファルケンブルグ氏の見立て。ボスが制作を依頼された時、その絵は鑑賞するためのものではなく、それを見る、身分の高い人々たちの会話を引き出す役目を担っていたとのこと。細かく細かく書き込まれたさまざまな人物や果実、風景などについて、集った皆で宗教的な戒めなどについて語り合ったそうなのです。まさにこの16世紀に繰り広げられたであろう貴族たちの会話を、現代の私たちもこの映画を通して同様に繰り返しているようなものですね。

(C)Museo Nacional del Prado (C) Lopez-Li Films

『快楽の園』は、表は黒一色で描かれた世界で、扉を開くと不思議な世界が広がります。この意外性も、人々のこころを掴んだことでしょうね。ちなみに美術館では、毎日係員がこの開け閉めをしているそう。

また、筆者自身ずっと疑問だったのですが、酒池肉林のような絵を描くボスは、なぜ教会から迫害されなかったのか? という疑問にも映画は答えてくれます。聖母マリア修道会は、当時の超正統派で、ここに所入会すると煉獄での贖罪が軽減されました。ボスはここに所属しており正統派カトリック。酒池肉林のような作品を残しながらも、一度もカトリック教会から非難されたことがありませんでした。ボスの作品の多くは、人間の愚行的な罪が、怪奇で悪魔的な形のイメージで描き出されていたのです。
90分の上映後、誰もがボスとその作品に取り憑かれてしまう極上の映画をぜひご覧ください。

 

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』
12月16日公開

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