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有名ライターから漫画家に。「渋谷直角」のルーツを探る [FRaU]

2017年10月24日(火) 20時30分配信

漫画家でコラムニストの渋谷直角さん。マガジンハウスの雑誌『relax(リラックス)』でライターとしてデビューし、華々しい活躍をしていく中、なぜ漫画という表現にたどり着いたのか。

渋谷直角さんのCHRONOLOGY

1975年
東京都練馬区生まれ

1996年
美術専門学校在学中、マガジンハウスでアルバイトを始める

1997年
雑誌『relax』でライターデビュー

2005年
写真集『a girl like you 君になりたい。』(マガジンハウス)佐内正史の写真に文章を寄せた、女優やモデルの瑞々しいポートレイト

2009年
『定本 コロコロ爆伝!!1977-2009「コロコロコミック」全史』(飛鳥新社)

2011年
コラム&エッセイ集『直角主義』(新書館)

2013年
漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)
漫画『RELAX BOY』(小学館)

2015年
漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)

2016年
エッセイ集『ゴリラはいつもオーバーオール』(幻冬舎文庫)

2017年
コラム集『コラムの王子さま(42さい)』(文藝春秋)
漫画『デザイナー渋井直人の休日』(宝島社)
映画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』 出演:妻夫木聡、水原希子ほか 監督:大根仁【9/16公開】

 
中学生の時に作っていた同人誌から作風は変わってない

Illustration:Chokkaku Shibuya

中学生の時に作っていた同人誌から作風は変わってない

“直角” という名前は、小山ゆうの漫画『おれは直角』から名付けられた本名である。父親はイラストレーターとして、創刊当時の『Hanako』などで仕事をしていた。母親とはセツ・モードセミナーで出会ったという。

「家の本棚には『BRUTUS』とかマガジンハウスの雑誌、浅井慎平の『気分はビートルズ』、『絵本 ジョン・レノンセンス』とかが普通にありましたね」

文化資本に恵まれた家庭ゆえ、小学生の頃から教室のみんなが読んでいる漫画とは違う世界にも触れていた。

「手塚治虫、白土三平、藤子不二雄、赤塚不二夫といったレジェンド系の漫画は親に買ってもらってました。実家には親戚の人たちが買った『ガロ』とか『COM』もあって。つげ義春の『チーコ』っていう漫画が小学生の子供心にビンビンきたんですけど、共有できる友だちはまわりにいなかった。もちろん小学生男子なので『コロコロコミック』にも夢中でしたけど」

‘80年代に注目を浴びていた和田誠、原田治、湯村輝彦、安西水丸などの絵に触れたのも、父親の影響だった。

「でも父親は僕のことをまったく認めてなくて。ライターになることも反対、なんなら仮想敵ぐらいの。『エヴァンゲリオン』の碇父子みたいな感じですよ」

中学生になると、友人たちと同人誌を作り、漫画や文章も書いていた。

「絵のタッチは今とほぼ一緒。全然成長してない。内容も明るくはない、やりきれない感じで。’60~’70年代の『ガロ』『COM』の影響ですね。この頃から作風も変わってないんです」

高校時代は、同級生とあまり打ち解けられず、漫画や音楽に没頭する。
「サザンやユニコーンから入って、フリッパーズ・ギター、スチャダラパー、電気グルーヴ、筋肉少女帯、あとはダウンタウン。もう、まんまですね。このへんでカウンター的な思想を浴びて」

高校卒業後は、美術の専門学校へ進学し、現代美術を専攻。

「絵が上手くなくても、アイデア一発でいけるんじゃないかって。とにかくデカいとか、数が多いとか。今で言うChim↑Pomみたいなグループでの活動に憧れてましたね」
専門学校在学中、マガジンハウスの編集部でアルバイトをはじめたことで、人生の大きな転機が訪れる。雑誌『リラックス』創刊にあわせて、ライターとして声がかかったのだ。『リラックス』誌における渋谷直角の個性は際立っており、キャラクターを前面に出した軽妙な文体は多くのファンを生んだ。

「あの頃NIGO®みたいになりたいとわりと本気で思っていて、服のブランドをやって、レーベルオーナーで、好きなものたくさん買って、っていう。なのでライター業は人脈作りでしかない、くらいに考えてました。目立ってナンボだと。まあ、若かったですしね」

やがてリニューアルを機に『リラックス』を卒業。注目されていた分、業界内では「リラックスの渋谷直角」というイメージが強く、ライターとしての仕事にあまり恵まれない時期が来る。

「ライターってもともと個性を必要とされない仕事のほうが多いですからね。仕事もガクッと減って、媒体に合わせた個性のない文章を書きながら、プライドが傷ついたりもしました」

ライターとしての仕事は続けつつ、個人ブログをはじめるなど、創作意欲を保ちながらの検索が続く。そんな中、古本のフリーマーケットで販売したZINE漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』がたちまち話題となり、単行本化。その絶大なインパクトのタイトルと、緻密なディテールにリアリティを宿らせながら、自意識と欲望にまみれた人間の業を徹底的に描いた作風は、物議を醸しながらも、漫画家としての新たな才能を提示した。
「賛否両論ありましたけど、自分の中で漫画という表現はこの先もあるなっていう可能性を感じました。他の人とは違う、自分独自の文法を持ったものが作れるんじゃないかなって」

そして次作となる漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が妻夫木聡主演、大根仁監督で映画化が決定。9月16日の公開に向け、今は宣伝活動に奔走している。

「この漫画が東宝というメジャーな配給で、何億円もかけて映画化されることは、カルチャー業界全体にとっても意義があると思っていて。この作品が良い前例になって、大メジャーの漫画原作しか映画化できないという流れが少しでも変わったら、次の誰かにとってもハードルが下がるかもしれない。そうなればいいなと思っています」
●情報は、FRaU2017年10月号発売時点のものです。

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