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おおやぶみよ“ガラス作家”という居場所を見つけるまで [おとなスタイル]

2017年10月03日(火) 10時00分配信

ギャラリー「日月(hizuki)」

午前だというのに陽が強く、サトウキビ畑の緑が金色を帯びている。読谷村(よみたんそん)にある『ギャラリー日月 hizuki』の縁台には、打ち水をしたように、ガラス玉が涼しげに転がっている。

ギャラリーには先客がいた。Tシャツにデニム姿の落ち着いた感じの女性。ガラスの器を両手に取り、光に透かして眺めることを彼女は幾度となく繰り返し、ようやく選んだ数枚を買うと、うれしそうに店から出ていった。
「大阪からいらしたそうです。ありがたいことに県外からのリピーターの方も、本当に多くて」と、おおやぶさんが穏やかな声で話す。

一つ一つ個性がある、吹きガラスの器やライトやオブジェ。形が少しゆらいでいたり、気泡の玉があどけなく浮かんでいたり、おおやぶみよの作品は植物のように有機的で存在感がある。どの器も手にしっくりとなじみ、盛るものを選ばず、毎日でも使いたくなる。全国にファンを持ち、海外でも注目される理由だ。「沖縄に工房を持って、来年で15年になります。実は私、生まれ育ちは京都なんです」

縁側のガラス玉が涼しげ。

人気のガラス作家はなぜ、沖縄の読谷村に暮らし、この場所で作品を作ることになったのか。そのあたりから彼女の“物語”をひもときたい。
「私はもともとはファッションをやりたくて、大阪の服飾学校に4年間通いました。ところが卒業する頃になると、流行に追われ、作ったものがどんどん古くなってしまうファッションの世界が、自分に向いているのか疑問が湧いてきた。それでいろいろ模索する中で、素材としてのガラスに興味を持ったんです」

石川県の能登半島に、全寮制のガラス学校がある。おおやぶさんはそこで1年間集中的に吹きガラスの技術を学んだ。その後、大阪の工場町にあるガラス会社に就職。
「アポなしでガラス工場へ行って『働かせてください』とお願いしました。すると社長が『うちは赤字続きで、いつまで続くかわからんけど、働くか?』と。その工場は形が均一の、泡ひとつないクリアなものを吹きガラスで製造していた。なんで、こんなに薄くてきれいなものを人間が生み出せるんだろう、と思うわけです。そこにいる20名ほどの職人の多くが60歳前後で、集団就職の時代にやってきて、若い頃からずーっとガラスを吹いている、それだけを続けてきた熟練の方たちです。ハチマキ、雪駄姿の職人の世界です。『自分のあとの世代は、もう、こんな仕事は見られない。これはちゃんと目に焼きつけておかないと』と思いながら、必死に働かせてもらいました」

一番下っ端のおおやぶさんは、誰よりも早く工場に出社し、職人たちの使う吹き竿ざおを磨いた。そして一日中、ガラスの粉が舞う工場の中で、窯の前で汗だくになりながら、職人たちと並んでガラスを吹いた。夕方、仕事を終えると、近くの銭湯の入場券が工場に置いてあるので、それを使って風呂に入ってから帰宅する日々。

「ところが2年も経たないうちに、経営難で工場は倒産して。職を失った私は、とりあえず日本全国のガラス工芸を見てまわろうかな、と。最初に訪れたのが友人がいた沖縄です。そこでいきなり、心が大きく揺さぶられたんです」

沖縄に来たからこそ、私はガラスをやれたんです

「仕事の様子を見学させてもらった沖縄のガラス工房は、衝撃的でした。ガラスは緻密な温度調整をして、窯の温度を一定に保たないと冷めて割れてしまう。それなのにその工房は、新聞紙を窯にポンと投げ入れて、3秒で燃えたからちょうどいい温度、みたいな測り方をしていた。『あ、それでもいいんだ!』って、本当に目からウロコが落ちる思いでした」
この大らかさ、ゆるさは、ガラスの制作に限った話ではない。本土のガラス教室ではマイナスのことばかりがおおやぶさんの耳に入った。
「ランニングコストもかかるし、ガラスで独立するのは大変だよ」
「作るだけでなく、教室で教えたりもしないと食べていけない」等々。
「だから、『ガラス作家として独立するなんて、夢のまた夢だよね』と諦めていたところもあったんです。今の世の中、何につけても『こうでなければダメだ』『これがなければできない』ということばかりですよね。道が狭められている。

その点、沖縄には『これでもいいんだよ』『やってみたらいいさ』という空気がある。その空気に私は背中を押してもらえた。自分にもガラス作りができるかもしれない、と初めて思えた場所が沖縄でした」
■Profile

おおやぶみよ/ガラス作家。1970年生まれ。京都出身。服飾学校卒業後、石川県能登のガラス学校で学び、大阪のガラス工場で修業。20代半ばで沖縄に渡り、ガラス工房を経て、2003年に沖縄中部の読谷村に工房とギャラリー「日月(hizuki)」を設立。

日月 hizuki
沖縄県中頭郡読谷村渡慶次273

 
『おとなスタイル』Vol.8 2017夏号より
撮影/大河内禎、おおやぶみよ

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