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絵本作家・ヨシタケシンスケが“妄想”を描いたきっかけ [FRaU]

2017年08月28日(月) 12時00分配信

Photo:Masaru Furuya 

絵本作家デビューしてから、まだ5年しか経っていないことが信じられないほど、幅広い世代の熱烈なファンを獲得しているヨシタケシンスケさん。子どものみならず、大人たちまで夢中にさせてしまうユーモアあふれる“妄想”の源とは——?
読む人に自由に解釈してもらえる“玉虫色の表現”が大好き(笑)

Photo:Masaru Furuya 

読む人に自由に解釈してもらえる“玉虫色の表現”が大好き(笑)

怒られるのが嫌い、だから事実より頭の中の妄想を描く

シンプルな細い線で描かれた愛すべきキャラクター、思わずクスッと笑ってしまう、とぼけた味わいのユーモア。独特な世界観を持つ数々の著書に虜になる読者が続出中のヨシタケシンスケさんは、今最も勢いのある注目の絵本作家だ。ヨシタケさんが生まれ育った神奈川県茅ケ崎のご自宅で、本作りにかける想いについて話を伺った。

「もともと僕はイラストレーターで、雑誌の挿絵や本の挿画などは15年近くやらせていただいているんですね。ただ、絵本は小さい頃から読んできて、すごく好きなんですけど、自分が作れるとは思っていませんでした。すでに素晴らしい絵本がたくさんある中で、わざわざ僕がやれることなんてないんじゃないか、という気持ちがあって」

Photo:Masaru Furuya 

それがあるとき「絵本を作ってみませんか?」と声をかけてくれた編集者が、同時に「例えば、りんごというひとつのモチーフをいろんな見方をすることで、物事にはいろんな視点があるんだよ、と子どもに教えるための絵本というのはどうでしょう?」と具体的な “お題” をくれたことで、それならできるかも、とやる気になった。

このときに生まれた記念すべき絵本デビュー作が『りんごかもしれない』。人間の思考力、発想力を刺激する画期的な本として、学術関係者たちの間でも評判を呼んだ一冊だ。

「最初の時点では、りんごを実と皮と種に分けてみようとか、りんごの産地を調べてみようとか、教育的なノリの強い本だったんですよ。でも、それだと僕が勉強しなきゃいけないし、何かひとつ間違っていたりしたら、僕が怒られちゃう。僕が怒られるというのは一番避けたい事態なので(笑)、事実を描くのではなく、男の子が頭の中で考えた想像、妄想としてアプローチすることにしたんです。〇〇かもしれない、という表現にしたのも、断定するのが嫌だから。“玉虫色の表現” が大好きなんですよね(笑)。断定しないことは、読む人に好きなように解釈してもらえるということでもあるんです」
大人が読んでもおもしろい、が僕にとって一番嬉しい誉め言葉

Photo:Masaru Furuya 

大人が読んでもおもしろい、が僕にとって一番嬉しい誉め言葉

「王道のことができない」と言うヨシタケさんは、テーマにおいても、いわゆる子ども向けの絵本という枠組みを軽々と超えていく。彼が初めて企画から作った絵本『このあと どうしちゃおう』では、タブーとされがちな “死” を題材に扱っている。

「僕は両親を早めに亡くしているんですが、大事な人と死の話は最後までできないというのが経験としてあるんですよね。親は死を怖がっていたのか? もし怖がっていたとしたら、それをどうにか軽減してあげることはできなかったのか? という後悔がずっと残っている。だから、元気なうちに『私はこんなお墓がいいな』とか『私は死んだら、こうなると思う』とか、ざっくばらんに話せるきっかけになる本を作れないだろうかと思ったんです」

この絵本はまさに子どもからお年寄りまで、あらゆる年代の読者に受け入れられ、笑いながら読んだ後に、それぞれの年代の生死観が行き交うというめずらしくも貴重な現象を生んだ。

「絵本を描いていて『これ、大人が読んでもおもしろいですね』って言ってもらえるのが、実は一番嬉しい。子どもと大人、両方に喜んでもらえる要素が入っていることは、僕が最初に絵本を作るときに目指した部分です」

Photo:Masaru Furuya 

一方 “本にまつわる本” の専門店を舞台にした最新刊『あるかしら書店』は、児童書ではなく、大人向けの一般文芸書として刊行されながら、実際は子どもの読者も少なくない。

「絵本って、読む時々によって、全然違った受け取られ方をしますよね。たとえば小さい頃に読んでいた本を、大きくなってもう1回読んだときに、あ、これ、こういう本だったんだ……っていう新たな気付きがあったりして。僕自身、そういう “人生で2回出会える本” が好きだし、僕もせっかく作るのなら、そういう現象が起こる本になってほしいという願いがあるんです」

 
PROFILE

Photo:Masaru Furuya 

PROFILE

ヨシタケシンスケさん
1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年に刊行した絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞を受賞。『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞。『もうぬげない』で第9回MOE絵本屋さん大賞第1位、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞。『このあと どうしちゃおう』で第51回新風賞を受賞。他に『つまんない つまんない』『ヨチヨチ父―とまどう日々― 』など著作多数。2児の父。
●情報は、FRaU2017年9月号発売時点のものです。

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