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女の見栄が招いたバラバラ殺人!?裁判傍聴で見た事件の裏側 [FRaU]

2017年07月11日(火) 14時00分配信

「最初から最後まで見届けることをモットーに、全国各地の裁判を傍聴してまわる日々。その中から私が一生忘れることはないであろう4つの事件の、知られざる裏側をご紹介します」(ジャーナリスト 高橋ユキさん)

PROFILE

ジャーナリスト 高橋ユキさん
ライター。北九州市出身。凶悪犯罪裁判、IT、芸能、育児などをテーマに執筆。 宝塚にも造詣が深い。主な著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など。
報道だけではわからなかった事件の“別の顔”が見えてくる!

Illustration:Midori Sakakibara 

報道だけではわからなかった事件の“別の顔”が見えてくる!

10年以上前から裁判傍聴を続ける高橋ユキさん。凶悪事件の裁判を女子目線で綴ったブログが注目を集め、現在も事件のその後を伝える記事を数多く執筆している。私たちにとって裁判所とは、普通に生活していればまず足を踏み入れることのない場所。そこに通うようになった最初のきっかけは何だったのだろうか。

「以前はIT企業に勤めていたんですが、ある時に体調を崩して、しばらくの間休職することになったんです。いきなり時間ができたのでせっかくなら仕事と関係ないことをやろうと、まずは漫画や本を読み始めたんですね。そこで、未解決事件を扱ったノンフィクションにハマって。何冊も読み漁るうちに、事件のいくつかはまだ裁判中だということを知ったんです。この人たちを生で見られる機会があるなら、本人たちから直接話を聞けるなら、ぜひ行ってみたいなと」
こうして高橋さんの裁判所通いが始まるのだが、そもそも“○○事件の裁判”と聞いて私たちが思い浮かべるのは、テレビで見る被告人の似顔絵や法廷の再現VTRくらいのものだろう。報道で事件の内容は知っていても、その後の裁判がどのように進められるかを知ることはほとんどない。高橋さんはこのような情報をどうやって集めているのか。

「各裁判所のその日の予定は、“開廷表”と呼ばれる時間割りのようなもので毎朝公開されるのですが、傍聴マニアの中には、朝見た情報をすぐにSNSにアップしてくれる人がいたりするんですよ。あとは裁判所に通っていると、マニア同士で顔見知りができるんですね。どんな裁判を追っているかはお互い知っているので、そういう人たちが情報をくれることも」

北九州連続監禁殺人事件

史上稀に見る凶悪事件!裁判は思わぬ方向に
詐欺師の男が内縁の妻とその家族をマインドコントロール下におき監禁。金を巻き上げ、用済みの人間は家族同士で殺させていった。2002年、監禁から脱出した少女によって発覚した、史上稀に見る凶悪事件。

「主犯格の男女は当初、対等な共犯関係とされていたんですが、裁判中に女のマインドコントロールが解けてきたんです。控訴審では“みんなに会って謝まりたい、話がしたい”と泣きながら話していて、その姿がとても印象的でした」

Illustration:Midori Sakakibara 

では逆に、女性特有の心理で起こった事件といえば?

「渋谷セレブ妻エリート夫バラバラ殺人事件でしょうか。この夫婦は住んでいる場所も学歴も絵に描いたようなエリート。しかも容疑者の妻は犯行後の偽装工作で部屋のリフォームまでしていて、それを夫の同僚に疑われてもシラを切ったりと、どのエピソードも人の興味を引くものばかりだったんです。おかげで裁判にも注目が集まり、あまりの人気に傍聴できなかったこともありました」

渋谷セレブ妻エリート夫バラバラ殺人事件

“女の見栄”が招いた悲劇真意は今も明かされぬまま
2006年12月、新宿区の路上で上半身だけの遺体が発見され、後に外資系不動産投資会社勤務の男性と判明。事件発覚から1ヵ月後、被害者の妻が死体遺棄の容疑で逮捕された。

「女性の同性に対する見栄やプライドが濃く影響した事件。DV夫から逃げきれなかったのは、彼のステイタスに未練があったからなのか……。裁判では被告人の当時の精神状態に話が集中して、犯行の動機は最後まで判然とせず。彼女の本音を知りたかったですね」

Illustration:Midori Sakakibara 

高橋さんは凶悪事件を主戦場としているが、これらの裁判では被告側と検察側との間で量刑などが激しく争われる場合が多く、審理が長期化することも少なくない。それを最後まで追うのもかなりの労力がいるはずだが、それほどまでに高橋さんを惹きつけるものとは何なのだろうか。

「報道では伝わってこないことがわかったり、予想もしてない興味深い話が出てくることですね。それを心底思い知らされたのがルーシー・ブラックマンさん事件。裁判を見始めた頃から、“これは絶対に見たい”と思っていた事件なんですが、最初に被告人が色つきメガネをかけて出廷してきたのを見た時は度肝を抜かれました。裁判そのものはワイドショーなどでも報道されていましたが、被告人がそんなキャラだなんてさすがにどこも伝えないですから(笑)。これこそ傍聴した人だけの特権ですね」

ルーシー・ブラックマンさん事件

傍聴してはじめて分かった強烈キャラに釘付け!
2000年7月、六本木の飲食店に勤務する英国人女性が行方不明になり、後にバラバラ遺体で発見。逮捕された容疑者はその後、計10人に対する準強姦罪と、うち英国女性含む2人を死亡させたとして立件された。

「被告人質問の回答で途中から急に英語を喋り始めたりするので目が離せず、裁判に通い詰めました。ちなみにこの事件を『THE TIMES』の記者が1冊の本にまとめていますが、その中に私も“ミーハーな傍聴人”として登場します(苦笑)」

Illustration:Midori Sakakibara 

報道されるような大きな裁判はこういった凶悪事件ばかりだが、日々行われている裁判はもちろんこれだけではない。窃盗など罪状が比較的軽い事件は簡易裁判所で審議される。

「ただし罪を繰り返すと地裁になることも。なかでも印象深いのは“デパ地下のさと婆”と呼ばれた伝説のスリ師ですね。もう高齢なので、裁判官も“もうこれを最後にしてくださいね”とか、“刑務所で死ぬなんてことのないように”なんて言葉をかけるんです。いつも厳しい顔をしている裁判官たちの無骨な人情を感じて心和む反面、この被告人はこんな台詞を今まで何回言われてきたのかと思うと……(笑)。ただし、“さと婆”のように盗まずにいられない、という悪癖から罪を繰り返すケースより、目立つのは生活苦から食べ物を盗むといった、やむにやまれぬ事情で犯罪に手を染めた人たちです。またそういった人たちはホームレスの場合が多く、もともと住む家がないので捕まることを何とも思っていないことがある。ほかにも、オレオレ詐欺の受け子が逮捕された事件から若者の就職難を実感したり……。あらゆる裁判を傍聴することで事件の傾向がわかり、そこからさまざまな社会の問題が見えてくるんです」

伝説のスリ師“デパ地下のさと婆”

ベテラン女スリ師の背中に漂う昭和の残り香
2016年3月、JR上野駅構内で買い物中の女性から財布を盗んだ疑いで、当時83歳の女が逮捕される。スリ歴65年、24回目の逮捕だった。

「警察ってベテランのスリ師にすぐあだ名を付けるんです(笑)。容疑者はこの時も自宅のある中野から上野まで出向いてスリをしていて、本当にガッツがある。でもそんなベテランも、身体の衰えで手元が狂い失敗してしまうのか……。彼らには、古き良き時代の名残や哀愁を感じてしまいます」
ここまで紹介したのはすべて刑事事件だが、裁判所で審理されるのは量刑だけではない。高橋さんいわく“公の場で他人の喧嘩を見ているような感覚”という民事事件であれば、裁判というものをさらに身近に感じられるだろう。

「特に離婚裁判などはどれも他人事とは思えない内容ばかり。裁判中にある人は怒り狂ったり、またある人は大泣きしたりと、まさに人生劇場そのものです。見ている側としても“世の中にはこんなに浮気する人がいるのか”とか、“もし自分がこの立場になったらこう振る舞えばいいのね”とか、いろいろ勉強になります(笑)。ただ、こういう感想を言うと、よく“他人の人生を覗き見しているよう”と言われるんですよね。確かにそうだし、でも人って元来、そういうものなんじゃないかなという気がするんです。それは裁判を見ている時の自分を顧みても、またそれを発信した時の世間の反応を見ても思いますね」
2009年に裁判員制度がスタートして以降、いつか自分も裁判員として当事者になるかもしれないと、裁判傍聴に訪れる人が増えたという。これまでは事件や裁判といっても、どこか別の世界の出来事のように聞いていた人も多いだろうが、それがこの数年でぐっと身近になったことは間違いない。しかし情報にアクセスしやすくなったとはいえ、それを鵜呑みにしてばかりでは意味がない。受け取る側の心構えも肝心、と高橋さんはいう。

「昨年、ある有名歌手が麻薬で2度目の逮捕をされましたが結局は不起訴でした。また別の、ある俳優の強姦事件も世間を大きく騒がせましたが、本人が何も語っていないのでどうなることかと見守っていたら、やっぱり不起訴に。逮捕されたからといって有罪とは限らない。安易な犯人扱いはよくないと、昨年はそう強く思わされた年でしたね。以前は、犯人が逮捕された瞬間にその事件はもう終わり、という感じでしたから、その後の裁判の結果まできちんと報道されるようになったのはとてもいいことだと思います。でも、やはり法廷に行かなければわからないことはまだまだたくさんあるなと。今は幸いにもこれが仕事になっていますが、それとは関係なく、裁判傍聴には今後も通い続けたいですね」

裁判の“専門用語”解説!

刑事事件
犯罪に対し警察や検察が捜査をし、容疑者が逮捕された事件。

民事事件
私人同士の財産、損害賠償、身分関係にかかわる争い。

高等裁判所
地方裁判所または簡易裁判所からの控訴(上訴)審を扱う。現在、全国15ヵ所に設置されている。うち本部は東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の8ヵ所。

地方裁判所
特定の地域を所轄し、原則として訴訟の第一審を扱う。また簡易裁判所の民事の判決に対する控訴審も担当する。現在、全国の都道府県庁所在地を中心とした253ヵ所に設置されている。

簡易裁判所
請求金額が140万円を超えない請求事件や罰金刑相当の刑事事件など、比較的軽微な事件を扱う。裁判官は簡易裁判所判事1名。現在、全国438ヵ所に設置されている。

控訴審
控訴とは、第一審の判決が不服の場合に上級の裁判所に新たな判決を求める訴訟手続き。控訴審とは控訴が行われる裁判所、もしくはその審理、第二審のこと。

結審
ひとつの裁判においてその審理を終えること。ただし結審した後も控訴(最高裁の場合は上告)は可能。

被告人質問
刑事事件で、被告人に対して行われる質問。裁判官、検察官、弁護人が質問することができるが、被告人に供述の義務はない。

 

●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。

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