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人生の大先輩へのラブレター[桐島かれん×岩立広子] [おとなスタイル]

2017年05月02日(火) 09時00分配信

細いのにしなやかで折れない柳の木のような強さと美しさを持っている―。
明治の終わりから、大正、昭和の初めに生まれた女性たちが、ひときわ輝いて見えるのはなぜだろうか。
シスターの渡辺和子、元首相・三木武夫夫人の三木睦子、作家の瀬戸内寂聴、元『暮しの手帖社』社主の大橋鎭子ら『日本女性の底力』(白江亜古著・講談社+α文庫)に登場する27人の女たちは、心折れるようなことがあっても何度でも起ち上がって、前へ進もうとする。
インタビューには、彼女たちの心身からにじみ出た宝物のような言葉がぎっしりと詰まっている。
本を読んだひとり、料理家の有元葉子さんが言う。
「登場する方々の共通点のひとつは、物心ついてから戦争を体験していること。その世代の方々は、『全然違う』と思います。よく考える。『ほんとはどうなの?』っていうことをすごくよく考えている。それに、ものすごく勇気があると思う」
勇気、考えること、凛とした生き方、それらはどこから来るのか。
彼女たちの言葉を受け取ると、後世に生まれた私たちは、なぜこんなにも励まされるのか。本の読み手となった、“今を生きる”女たちに聞いてみた。
桐島かれん×岩立広子

なんでもないような地味な日々でも 自分らしくコツコツとやっていれば、 その人の“歴史”ができるんですね

桐島かれん×岩立広子

年齢なんて関係ない、本当にそう思わされます

「すごく面白かったです、どの方も素晴らしいです」

本をめくりながら、心の底からという表情で桐島かれんさんが話す。

「たとえばシスターで医師の須藤昭子さん、こんな方がいらしたなんて、まったく知りませんでした」

須藤昭子シスターは49歳からの人生を、西半球で最も貧しい国といわれるハイチでの医療活動に捧げた人物。80代になってからも植林や炭作りの技術を自分で学び、ハイチの人たちに教えて、彼らの生活向上にと一心に尽くした。

「年齢を超えて、ご自分のできることを精一杯になさっている。もう、感動しちゃいますよ。その須藤シスターをはじめ、『日本女性の底力』には私の知らない方も多いのですが、本当にみなさんがすごい。圧倒されます。森英恵さんのような著名な方も、生い立ちから語られているので、『ああ、こういう方だったんだ』と、今までのイメージと違う顔が見えてくるんです」
私が手仕事に惹かれる理由がわかりました

人間って一生かけないと、 自分が何をしてきたのかわからないんだと思う。 だからどの時代もとても大事なんです。 自分のそれぞれの時代を大事にしてほしい。 そうすれば必ず最後に希望がある― 岩立広子

私が手仕事に惹かれる理由がわかりました

「どの方についても語れるぐらい感銘を受けましたが、おひとりについて私が話すなら……やっぱり、岩立広子さんかな」

岩立さんは、東京・自由が丘の『岩立フォークテキスタイルミュージアム』を運営する人だ。

「ミュージアムに行ったことがあるんです。ペルーやインドなどの、昔の手仕事の素晴らしいテキスタイルがたくさん収められていると聞きつけて。私も昔から、そういうものに強く惹かれるので。でも、岩立さんご自身のことは存じ上げず、今回、本を読んで初めて知りました」

染織家だった岩立さんは、毎年新しい作品を発表し続けなければいけないことに疑問を感じていた。そんな彼女が無性に惹かれたのが、ある日、ふと目にした1000年以上前のペルーの布。以来40年以上、南米やインドへ通い、手仕事の古い染織品の逸品を見つけて、保存することが彼女のライフワークとなった。

「放っておくと消えゆくものを残すために。きっと、それをご自分の使命のように思われたのでしょうね」

かく言うかれんさんも、自身のショップ『ハウス オブ ロータス』の商品作りや買い付けのために、年に2回インドへ行くのが恒例だ。

「岩立さんも本の中でおっしゃっているけれど、機械ではとうていできない優れた手仕事が、インドにはまだ残っているんです。人の手で途方もない時間と手間をかけて作られる、美しいダブルイカット(絣の一種)などが。

私は旅好きの母に連れられて、子供の頃から世界中をまわりましたが、いつも、その土地の人たちが昔から普通に使っている日用品や身につけているものが、目に飛び込んできたんです。

母が娘に、娘が自分の子供に……と受け継がれていくような民衆芸術ですね。農作業の合間にチクチクと針を刺す、刺しゅうみたいなものが愛おしくて」

なぜ、そうしたものに惹かれるのか……。
“美には、確かな物差しはないんですね。誰も数字で評価することはできないんだけれど、でも、大多数の目が選ってきたものには不変の命が宿っていると思う”。こう、『日本女性の底力』の中で岩立さんは語っている。

「この言葉を読んで、『まさにそうだ!』とすごく腑に落ちました。私が民衆芸術に強く惹かれる理由もそれだったんだ、と」

かれんさんが話を続ける。

「それと、岩立さんの話を読んで私がすごく嬉しかったのが、『人間って一生かけないと、自分が何をしてきたのかわからないんだ』という言葉。実際、岩立さんも、インドへ行くたびにチベット難民の子供たちの学校へ寄付金を置いてきたことで、最後に感動的な出来事が待っていたわけで。読んでいて、涙が出ちゃうような……。

だから思うんです。人生に華やかな時代や成功があったとしても、それはその人の長い歴史のごく一部でしかない。最後までわからないのだから、地味でもコツコツと、自分が信じたことをやり続けるしかないんだな、って。本に出てくる70代、80代、90代の方々は、そうやって“自分の歴史”を作ってきたんですよね。50代の私たちなんて、まだまだです。『さあ、これからだ。私も頑張ろう』って励まされる。すべての女性に勇気を与えてくれる一冊です」
■Profile
桐島かれん
きりしまかれん
写真家の上田義彦氏との間に、3女1男を持つ。クリエイティブディレクターを務めるお店『ハウス オブ ロータス』が、2017年春にリニューアルオープン。アジア、ヨーロッパなど世界を駆け回る日々。

 

岩立広子
いわたてひろこ
『岩立フォークテキスタイルミュージアム』館長。1965年に初めて南米へ渡り、以来40年以上かけて、インド、中東など世界各地で染織品を収集。東京・自由が丘のミュージアムには、約7500点の染織品が収められ、一般観覧可能。

 

『おとなスタイル』Vol.6 2017冬号より
(撮影/相馬ミナ)

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