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人生の大先輩へのラブレター[有元葉子×堀文子] [おとなスタイル]

2017年04月16日(日) 09時30分配信

細いのにしなやかで折れない柳の木のような強さと美しさを持っている―。
明治の終わりから、大正、昭和の初めに生まれた女性たちが、ひときわ輝いて見えるのはなぜだろうか。
シスターの渡辺和子、元首相・三木武夫夫人の三木睦子、作家の瀬戸内寂聴、元『暮しの手帖社』社主の大橋鎭子ら『日本女性の底力』(白江亜古著・講談社+α文庫)に登場する27人の女たちは、心折れるようなことがあっても何度でも起ち上がって、前へ進もうとする。
インタビューには、彼女たちの心身からにじみ出た宝物のような言葉がぎっしりと詰まっている。本を読んだひとり、料理家の有元葉子さんが言う。
「登場する方々の共通点のひとつは、物心ついてから戦争を体験していること。その世代の方々は、『全然違う』と思います。よく考える。『ほんとはどうなの?』っていうことをすごくよく考えている。それに、ものすごく勇気があると思う」
勇気、考えること、凛とした生き方、それらはどこから来るのか。
彼女たちの言葉を受け取ると、後世に生まれた私たちは、なぜこんなにも励まされるのか。本の読み手となった、“今を生きる”女たちに聞いてみた。
料理家 有元葉子×堀文子

有元葉子さん

料理家 有元葉子×堀文子

一本の木は、お金に換えられません

『日本女性の底力』の冒頭に登場する画家の堀文子さんと、有元葉子さんには似たところが多い。ひとり旅をすること。旅先では名所旧跡や美術館よりも、市井の人々の暮らしに興味を持つこと。自然を愛し、樹木を護ろうとすること。

「似ている、なんていうのはおこがましいけれど、感じるところが似たタイプの人っていますよね。たとえば自然を見て何を感じるか」

堀さんは神奈川県大磯の自宅裏手にある原生林の、樹齢400年の木が伐採されると聞いたとき、バブル期だったにもかかわらず、私財をなげうって土地ごと購入している。

「古い木を護るためよね。すごくわかる、その気持ち。木のある空間が人に与えてくれる、限りない優しさや気持ちよさ。それはお金に換えられるものではないですから」

有元さん自身も、田園調布のスタジオの前にある樹木の保護活動をした経験がある。無事に残されたけやきの木のまわりに、せっせと植物を植えていたら「まるでジャングルみたい」なスペースができた。そこが今や、都会で暮らす人々の憩いの場となっている。

「木があることで、心や目が休まる。夏だったら、木の下には涼しい風が吹いて『ここは気持ちがいい』ってみんなが感じる。そういうこと以外に、この世で大事なことは何もない、って私も思います」

この世で一番大事、とまで言い切れるのは、明確な価値観を持っている証拠。「でも」と有元さんが続ける。

「木があることが大切なのは、何も堀さんや私だからではなくて。人はみんなそうなのね、ほんとは。そこに気がつくか、気がつかないのか、っていうだけのこと」

「そこに気がつく」ためには、濁りのない、研ぎ澄まされた感性が必要で。だから彼女たちはひとり旅をしてきた。

ひとり旅をすると何者でもない自分になれる

堀文子さんは病弱だった夫を42歳で亡くすと、初めて海外へ渡った。ヨーロッパ、アメリカ、メキシコを3年間かけて廻るひとり旅だった。彼女は画家なのに美術館の名画よりも、“道の落ち葉をどうやって掃除するのか。親は子供をどんなふうに叱るのか。つまり、日常の暮らしを見たかったんです”と本の中で話している。
有元さんも旅先では、街路樹の落ち葉がどう掃除されるのかが気になるタイプだ。

「毎日バスに乗って観察していたら、ある日、公園の一角に落ち葉が集められていて。『なるほど、ああやって腐葉土にして使うのね』って納得しました。そういうことを面白がるタイプなんですね、きっと堀さんも私も」

そんなふうに普通の暮らしを見るために、不安や寂しさを圧してまで、ひとり旅をする必要があるのだろうか。

「日本にいて、同じ環境でずっと暮らしていると、なんだか自分が固まってしまう感じがして。居場所を変えることが私には必要なんです。それにはひとり旅がいい。見知らぬ国で、どちらへ行くのか、何を見るのか、すべてを自分で決めて、自分で責任をとることをしていると、頭の中が固まる暇がないです。
それに見知らぬ土地にひとりでいると、何者でもない人になれる。日本での立場や日常から離れて、素の自分になることで、サーッと入ってくる新鮮なものはたくさんあります」
しなやかさの元にあるもの

堀文子さん

しなやかさの元にあるもの

「同じ場所に居続けると自分が固まる、と言いましたが、人って、自分で自分を勝手に決めつけていることが実は多いんですよね。年齢や性別や生まれ育ちは自分で選べないのに、『もう年だから』とか『女だから』とか言いわけをして、何かができない理由にする人が世の中にとても多い。自分自身に言いわけをしてしまうのね。
年齢と社会の目。このふたつが女性の足枷になっているんです。このふたつを取り去ってみたら、人生はまるで違ってくる。堀さんはじめ、『日本女性の底力』に登場する方々はみなさん、自分をそんなふうに外から縛っていない。だから、いくつになっても、しなやかで自由な人でいられるんだと思う」
しなやかさの元にあるものは一体なんだろう?

「ある意味、女性であることを逆手にとることかもしれない。27人の方々が若かった時代は、男の人の多くが戦争礼賛社会に染まっていった。でも女の人たちには、それ以前に大切なものがあったわけです。毎日の生活ですよね。なんとか家族を生きさせるために、狭い土地で野菜を育てたりしていた。だから大将みたいな人の言うことを聞くんじゃなく、土の言うことのほうを聞く、とかね、そっちのほうが女性には大事だったわけでしょう」

“自然から離れると、人間は物質的になり、欲望の充足に向かい、ものの本質を見抜く心を失うと思いますよ”と堀さんが本で語っている。

「堀さんの言葉ではないけれど、自然に目を向けていれば、世間やまわりのうるさい気持ちなんて、どうでもよくなります。そんなものは切り捨てて、人になんと言われても、私にはこれがあるから大丈夫と思える。そういう生き方に私も共感するし、それができる人がしなやかで魅力的なのだと思います」

 

日本人は肩書が好きですが、

まだ見ぬ自分の能力を発掘するには、

“何者でもない自分”でいる自由が大切です。

そして群れずに、自分の目で

きちんと物事を見据えることも ― 堀文子
■Profile
有元葉子
ありもとようこ
料理家。3人の娘を育てた主婦時代を経て、料理家に。多数のレシピ本のほか、『使いきる。』『毎日すること。ときどきすること。』(共に講談社)などの生活や生き方にまつわるエッセイも人気。

 

堀文子
ほりふみこ
日本画家。1918年生まれ。植物や中東の女性像を描いたシリーズなど、繊細でありながら力強い、日本画のイメージを覆すモダンな作風で人気を博す。作品集多数あり。

 
『おとなスタイル』Vol.6 2017冬号より
(撮影/三木麻奈)

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