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NHKラジオ深夜便“会話の達人”佐野剛平「自分を語る技術」 [おとなスタイル]

2017年02月16日(木) 09時00分配信

自分を語る技術とは

聴く人も、話す人も心地よい語りとは?
大人になれば誰しも、人前で話す機会がある。
そんなとき、自分らしい、面白い話ができると達成感が持てるし、自信がついて、次の世界が広がります!

どんな“態度”で話すかをみんな見ています

「人前できちんと話せるということは、社会性があるということです」
大勢の前で堂々と話すことができて初めて、本当の意味で大人と認められるのかもしれません。

「人前に立てば、みんながあなたの“態度”に注目します。まず、どうしますか? そう、笑顔です。笑顔で人前に立ち、深くおじぎをする。それからゆっくりと話し始める。口調は、ふだんの話し言葉をちょっとだけていねいにした感じがいい。かしこまった話し方では、聴き手の心に言葉がスムーズに入ってきません。
ふだんより大きな声でゆっくりと、大勢にではなく、たったひとりに話しかけるような気持ちで、無我夢中で話してください。話し終えて、『彼女、精一杯やったな』と人から思われれば、最高です」

「人の興味をひく」自分の体験を話そう

「“態度”の次は、ここからが本番、“何を話すか”です。ほかの人が持っていない、あなただけの体験を話すのが一番です。仕事の失敗談、旅先でのちょっとした事件、人生の岐路に立ったときの話……自分のこれまでの体験のうち、人の興味をひきそうな話をひとつ選びます。

次に、その体験の“どこ”から話すかを決める。話は時系列、つまり起こった順番通りに話しても、面白くないんです。結論から話してみたりして、聴き手を良い意味で裏切る仕掛けが必要です」

佐野さんの講座では事前にテーマが与えられ、毎回、受講生ひとりずつが3~5分程度、みんなの前で話をするそうです。

〈話をまとめるという作業が、私はなかなかできなかったんです。でも『話に起承転結をつけましょう』とか、『今回は結論から始めてみたらどうですか、そのほうがインパクトがありますよ』と佐野先生からアドバイスをいただいて、人を惹きつける話術がだんだんわかってきました〉(裕子さん・54歳)

「内容はあらかじめ、メモにまとめます。大事なのは、必ず結論、つまり“落ち”をつけること。これがないと、聴く人ががっかりしてしまいます。聴き手が『やっぱりそこなんだ……』と予想できるような落ちでは、上手とは言えません。よーく考えて、悩んで、あなたなりの結論をみつけてください。話すことは毎回毎回真剣勝負。ゲームみたいなもの。挑戦し続けていれば、必ずあなたらしい話が楽しんでできるようになります」

たとえば僕なら、こう話します

「結局のところ、話すことも聴くことも、いかに人に喜んでもらうかだと思っているんです。だからそこには本当に、プライドも肩書も関係ない。そんなもの、消しちゃいな、って言いたい。僕は山が好きで、山に登って自然の中にいると、自分がちっちゃい人間なんだとわかる。これまで1300の山に登ってきて、いつ死んでもおかしくないような、神さまに救(たす)けられている、と思う瞬間が何回もありました。そんな人間が、素敵な人たちの話を聴いたり、話を聴いてもらったりするわけだから、かっこをつける余裕がない。いかに相手を敬って、相手に喜んでもらうかしかないわけです」

神さまに救けられている、と思うなんて。どれほど危ない体験をしたのでしょうか、と聴くと、佐野さんは「うん。どっから話そうかな」と小さくつぶやいて、一呼吸おいてから静かに話し始めました。

「3年ぐらい前に、ある人物の存在を知ったんです。その人は山が大好きで、学生だった昭和37年に自分がリーダーとなって、冬の大雪山に11人で登り、遭難して、自分以外全員が死んでしまったんです。その人ひとりが山から下りてきた、足を凍傷で失って。僕はその人に『ラジオ深夜便』でインタビューしたいと思った。どんな気持ちで、その後の長い人生を歩んできたのか、とても知りたかったんです。でも出演を依頼するの、恐いでしょ? 普通に依頼したのでは、きっと出てくれない。
僕はその人に電話をかけて、こう切り出しました。『あの、昭和37年の夏に、学習院大学の学生が日高山脈で遭難した事故がありましたけど、ご存じですか』『ああ、知ってるよ。新聞で見たよ』とその人から返ってきたので、『そのときのリーダー、僕だったんです』と言った。

昭和37年の事故というのは、僕が大学2年生のときのことで。下山するときに、台風ですごい流れだった川を、リーダーの僕が渡ってみて危険だと判断した。ところが山に慣れている1年生が、ひとりで渡り始めてしまったんです。『引き返せ』と言っても、轟々(ごうごう)という濁流の音で聞こえない。と、彼が川の中で崩れて、グーッと流れの中に消えていくのが見えた。どうしよう! どこかにしがみついていたら助けようと思って、川下を探したけれど、絶壁になっていて僕らも歩き進めることができなかった。しかたなく引き返すと、嘘みたいな話なんだけど、渡れなかった川に、まるで橋がかかるみたいに虹が出ていた。そのとき、僕は思ったんです。あ、彼は逝ったんだな、と。翌日、5キロ下流で、急流にもまれて額を打った遺体が見つかった。遺体の捜索、警察の事情聴取、記者会見……僕にとって永遠に忘れられない数日でした。

そういう経験をしているんですね。だから、ほかの人にはわからない痛みの体験をお互いにしているから、出演依頼をしたその人は言ってくれました。『そうだったのか。インタビューを受けてもいいよ』って」 こちらの質問に答える形で、佐野さんがとっさに頭の中で組み立てて語ってくれた“自分の話”。負った痛みもまた、聴く側の心に響く物語。人と人の心が通じる“会話”の尊さが、あらためて染みてきます。

「語り下手」解消の5ヵ条

1:笑顔で堂々と人前に立つ

2:ひとりに話しかける気持ちで話すとうんと楽になる

3:自分の体験の中から人の興味をひく話をひとつ選ぶ

4:どこから話すか、順番と落ちがキモ

5:「聴いてよかった」と人を喜ばせることをめざして話す

 

ラジオ深夜便
NHKラジオ第1にて
毎日23:15~5:00、祝日23:10~5:00(NHK‐FM毎日1:00~5:00)生放送。
アンカーはNHK 現役・OBアナウンサー。静かで優しいトーク、さまざまな時代・ジャンルの曲、インタビューなどを流す、隠れた人気番組。

 

■Profile
佐野剛平
さの ごうへい
新潟県栃尾生まれ。1965年学習院大学経済学部卒業。元NHKアナウンサー、エグゼクティブプロデューサー。現在は『ラジオ深夜便』のディレクターで、『列島インタビュー(1:00台)』、『明日へのことば』(4:00台)の担当メンバーのひとり。取材交渉からインタビュー、構成、編集までを手がける。学習院生涯学習センターで長年続けている『話し方セミナー』も人気

 

 

『おとなスタイル』Vol.5 2016秋号より
(撮影/大河内禎)

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